自動給水器雑考

1.以前の自動給水システム

以前、私はプランターによる土耕栽培をしていた。そして自動給水用に水道蛇口に接続し指定した時間に水やりする自動水やりタイマー(takagi 16200円)を使用していた。しかし、その方式では水道水がムダに使われたり、土耕栽培ではうまく育たないなど限界を感じていた。

そんな時「100円グッズで水耕菜園 伊藤龍三著」で、自動給水ボトルのページを見つけた。ペットボトルの下側にエンピツが通る程度の穴を開け養液を入れて栽培トレイにセットする方式が紹介されていた。うまい方式だと感心したのだが貯水トレイを栽培トレイと分離してチューブで結べば貯水トレイを日当たりの悪い場に置けるし、複数のペットボトルを使用できるなと考えた。


原理を簡単に説明する。ペットボトルはキャップで閉じられており下部に小さな穴が空いている。穴が外気に出ている面積が小さい時は大気圧により中の養液は流れ出ないが水位が下がり、穴の面積が大きくなると大気圧よりペットボトル内の水圧が上回り、水の表面張力が破られボコッと水が外に出て、その分の空気が入る。栽培トレイと給水トレイはチューブで接続されているので、サイフォンの原理により栽培トレイの水位が下がると同時に給水トレイの水位も下がるのでペットボトルから自動的に養液が供給されることになる。ここで水耕ポットもペットボトルもそれぞれ複数設置すれば規模を拡大できる。
下記写真が実際の使用例で、写真奥が給水トレイで4リットルのペットボトル、手前が栽培トレイでA4トレイに透明プラスチックコップでバーミキュライトを培地にした底面給水式レタス栽培の例である。

しかし、この方式での水耕栽培は数ヶ月でやめてしまった。理由はペットボトルに給水する時、下部の穴からでは養液を入れにくいのと、給水トレイに指で穴をふさぎながらセットするのがやりにくかったからだ。なんとか改良できぬものかと考えた。そこでペットボトルのキャップに穴を開け、中にビー玉を入れればペットボトルを逆さにした時も水が漏れない、そして給水トレイにキャップのビー玉を押し上げる突起を持つ受け皿を作ればよいと思いついた。下図はペットボトルのキャップ部とロウで自作した受け皿である。

なお、この方式では逆さにしたペットボトルを支える機構が必要となる。そこで食パン用のケースの蓋にペットボトルを支える穴を2個開け、中に受け皿を置いた。そしてケース下部に継手(つなぎGX-36)を付けた。さらに屋外に置くので藻の発生防止のため、ケースを表面がアルミ製のキャップで覆った。下記写真がレタスの栽培ポットを複数つないだ時の使用例である。この方式ではあらかじめ養液を入れたペットボトルを準備しておくことができるので、ペットボトルへ養液を入れるのが楽になった。しかし、それでも限界を感じるようになる。

2.ペットボトル式自動給水器は特許出願断念

ペットボトルのキャップに穴を開け、ビー玉を入れる給水方式を特許出願しようかなと考えたが、商品化は難しいとも感じていた。商品は「受け皿、穴を開けたキャップ、ビー玉」となるのだろうか。ケースまで含めるとなると大きなサイズになり、ネット販売では送料がかかり安くはならない。それでは売れないだろうなと躊躇していた。

それでも今回、自動給水用水位調整器を特許出願する際についでに出願しておこうかと思い直し特許調査してみた。すると同様の発明が2014年台湾から日本に実用新案で出願されていることがわかった。ちょうど私が発明した時期と重なる。伊藤龍三氏の本がきっかけで家庭での水耕栽培がちょっとしたブームになったころ、台湾でも同じことを考えた人がいたのだろうか。台湾の発明は穴があるキャップで、ビー玉を中に入れる点は私の発明と同じだが、さらにキャップの外側にネジが刻まれており、ペットボトルを回転させ栽培槽に固定する方式だった。私の発想を上回っているなと感心した。日本に出願したのは「カンタン!水耕栽培キット 主婦の友社 2598円」で書籍形式で販売されているキットに使用するためだったのではあるまいか。このキット、給水機能を持たせたのは感心するが、これでは500mlのペットボトルの大きさが限界で、栽培槽も小さいので数株のレタス栽培にしか使えないと思う。昨年末八戸の書店で見かけた。買わずとも中身は分かるので買わなかったが、amazonの書評の数が多い点から推察すると結構好評のようだ。

いずれにしても私のペットボトル式自動給水器は特許出願が難しいことがわかった。

<a href=”http://www.amazon.co.jp/gp/product/4074129906/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&tag=shodana-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4074129906” taget=”_blank”><img src=’http://imges-jp.amazon.com/images/P/4074129906.01._SL110_.jpg‘></a>

注)特許と実用新案は違う。特許は審査請求して認められなけれなければ権利化されずハードルは高いが、実用新案は審査がなく出願と同時に権利が認められる。実用新案は似た商品が出た時、権利侵害を訴えてはじめて審査される。台湾の発明は特許出願してもおかしくないレベルだったが、コスト面や短期の権利を押さえる目的で実用新案にしたのかもしれない。

3.市販の自動給水器

植物工場の自動給水では水位計とポンプを使用するが、動力を使わない家庭菜園向きの自動給水器に絞るといくつかの方式がある。

もっとも簡単なのが100円ショップで売られているペットボトルにつける円すい状のプラスチック製のキャップである。キャップには小さな穴が空いており、プランターの土に刺すと少しずつ水がしみ出るしくみだ。しかしこの方式では穴に土がつまり思うような容量の水が出ない事が多く、実用性に疑問がある。

次は毛細管現象を利用した給水方式である。今回、東京のホームセンターD2で「水やり当番」を見つけた。2個入り500円以下で買えるのは安いと思う。

これは素焼き製の円すい部をプランターの土に挿し込み、(たぶん)不織布が入ったチューブをペットボトルに入れると毛細管現象で水がチューブを通して素焼き部にしみ渡るしくみのようだ。ここでは素焼き部全体から汗のように水滴がにじみ出るので、100円ショップのキャップの小穴のようにつまることはないだろう。この商品には給水量について次のように書かれている。

水やり当番1個の1日の給水量は約200〜300ml程度です。

給水量は植物の種類や状態、土の乾き具合、鉢の大きさ、土質、気温、湿度など様々な条件により異なってきます。

給水量の調整は鉢や水容器の高さを調整して行ってください。水面が高いほど給水量がふえ、水面が低いほど給水量が減ります。

通常の鉢だと、1日200〜300mlはちょうどよい給水量だと思うが、水耕栽培(培地を使うので正確には養液栽培)でトマトやキュウリを栽培するのには力不足だろう。結局のところは花の栽培には使えるかもしれないが、野菜栽培の自動給水器としては不向きである。

その他の水やりシステムとしてはtakagiのスプリンクラー(点滴)がある。左の写真が点滴用で右は4分岐用である。

点滴による培地式養液栽培はプロのトマト栽培などにも利用されているが、これは一般家庭用でつまみにより水滴量の調整ができるようになっている。チューブは内径4ミリで私の自動給水器に使用しているものと共通だが、チューブを流れる養液の水圧によって点滴量が違ってくる。これも家庭菜園で留守中の自動給水に使える代物ではない。

4.ボールタップ式自動給水器

ペットボトル式の給水器では給水量に限界がある。2リットルのペットボトル2個でも4リットルである。トマト栽培では最盛期には一株1日5〜10リットルも消費するため、一週間の不在で35〜70リットル分をペットボトルで並列して給水するのは無理があるからだ。

トマトやキュウリなどの実物野菜の栽培には大型の栽培槽が必要で、栽培槽の水位調整にはボールタップ式の水位調整器が使われることが一般的である。ボールタップ式水位調整器は水洗トイレで使われている方式で、水位が上がると球状(筒状もある)のフロートの浮力により、てこの原理で弁を開閉する機構を持っている。例えば有名なホームハイポニカSarah(サラ)では別売りのボールタップを付ける方式である。下記ページを参照。

http://www.gokigen-yasai.com/sarah.htm

私がこれを見て感じるのは貯水槽や栽培槽の大きさと比較してボールタップが大型でチューブも太すぎる点だ。トイレで使われているボールタップをそのまま使用した感じがし、家庭菜園にはオーバースペックだと思う。トイレではタンクの水を流した後にすぐに給水しなければ次の使用に差し支えるが、家庭用の栽培槽では1日10〜20リットル程度の水量をゆっくり供給すればよい。すなわち、チューブの内径は4ミリ程度、そしてボールタップももっと小型のものでよいはずだ。実際に小型のボールタップが輸入され、水耕栽培に使われている例もある。しかし、いずれもボールタップ式ではフロートの浮力をテコの原理で弁を開閉するため一定の機構部分が必要で小型化、低価格化には限界がある。

5.従来方式の課題

そこで私はフロートに硬度がほぼゼロの材料を乗せ直接、弁を開閉する原理を考えた。しかし特許出願の際、調査したところ、基本原理は下記サイトですでに紹介されていることを知った。

ベランダゴーヤ100研究所著「自動給水装置で、ペットボトル等を活用した、植物プランターへの自動給水を可能とする定水位調整器」である。

http://goya100.blog.jp/archives/3947950.html

この方式はボールタップなど機構部分が必要ないので、小型化、低価格化の可能性を秘めている。しかしノズルをウレタンでふさぎ、ペットボトルをフロートにする方式はやや大げさかなと思う。そして栽培槽への取り付け加工が必要なため、商品として流通させるのは難しい。フロートの浮力など計算すればもっと小型化できると思う。私は必要水量や水圧など厳密に計算し、極力小型化を図った。そして栽培槽に取り付けるのではなく、容器として外置きすることにより、小型化、汎用化させた。結果、葉物野菜の栽培ポットから実物野菜の大型栽培槽にいたるまでサイズに限定されずに広く使える自動給水器が実現できた。

さて、従来の自動給水には次の課題があった。

(1)水位調整器が大きく高価

水耕栽培に使用される自動給水を目的とした水位調整器は大型であり、容積数十リットル・水位数十センチの大型栽培槽が適切な水耕栽培に使用されている。
この水位調整器は家庭用菜園に必要とされる給水量よりかなり多い仕様となっているため、外形寸法が大きく、高価である。

(2)ペットボトル式は貯水量が少ない

ペットボトルを使用した自動給水は実物野菜の栽培には貯水量が少なすぎる。
すなわち葉物から実物野菜まで、様々な大きさの栽培鉢に応じて、簡単に水位調整できる自動給水器には適さない。

(3)小型軽量で安いものがよい

一般家庭では水耕栽培はあまり普及しておらず、通信販売が主な販売手段となるため、宅配便ではなく、通常郵便で送付できるサイズ、すなわち一般家庭の郵便箱に入る厚さ3センチ程度以下で手のひらに載るサイズの小型軽量で安価な自動給水用水位調整器が求められている。

6.自動給水器の開発

小型軽量化するには水圧、流量などをきちんと計算する必要がある。

ここで、家庭向け水耕栽培で必要とされる養液の水量は、もっとも多いトマトやキュウリ栽培でも一株あたり1日最大10リットル程度である。これは0.12ml毎秒程度の流量で、滴が垂れる程度であり、この流量では内径4ミリ以下のチューブで十分である。

今回の自動給水器(自動給水用水位調整器)の蓋には入水端子が付いており、容器の中のフロートの浮力で貯水槽からの水を止めている。

ここで水位調整器の入水端子に加わる圧力は、貯水槽の水位が2メートルの時、端子の内径は3ミリなので、下式で計算できる。

圧力=内径半径×内径半径×3.14×水位の高さ=0.15×0.15×3.14×200=14.13グラム

実際に入水端子先端円筒部に指を当ててみると軽く圧力を感じる程度である。実際に計算してみて、これを止めるフロートの浮力はかなり少なくて済むことに驚いた。

ここでフロートの容積は6.5センチ四方、厚さ1.5センチ、フロート面積42.25平方センチ、重量2.2グラムである。またフロートの上に埋め込まれている接着パッドは2センチ四方、厚さ0.5センチ、重量1.8グラムである。
すなわち、フロートに必要な浮力は

浮力=フロート重量+接着パッド重量+水圧=2.2+1.8+14.13=18グラム

となり、この18グラムは水18立方センチメートルの容積の浮力に相当し、フロート面積42.25平方センチの時は

18÷42.25=0.426

すなわちフロートで約0.43センチの厚さの浮力でバランスする。
なお、ここで貯水槽液面の最高水位と最低水位の差を1メートルとすると

0.15×0.15×3.14×100=7.065

すなわち約7グラムの水圧差となり

7.065÷42.25=0.167

フロートの厚さで約0.17センチに相当し、この値が貯水槽の液面水位の変動に対する水位調整器内の液面水位の変動幅となろ。この値は水耕栽培用の水位調整器としては十分に定水位を保つ精度と言える。
しかし、実際はフロートの厚さが0.43センチ程度では水位調整器が正確には水平に設置されていない時や継手の傾きやバリ、藻の付着などにより、端子先端円筒部と接着パッドに隙間が発生するため水が漏れる。
ここでは、上述の浮力以上に、接着パッドが入水端子の継手先端円筒部と接触する時、十分に凹み接着させる程度の圧着力を必要とする。
すなわち、フロートには18グラム分の浮力に圧着力を加算した浮力が必要である。

なお、小さい圧着力で接着性を高めるには端子先端円筒部の面積ができるだけ小さい方が単位面積当たりの力、すなわち圧力を高めるため効果的である。

ここで接着パッドは極めて弾性率が低く柔らかい材料で小さい素材でも変形しやすい素材とする必要がある。ここでは30グラム程度の浮力で凹ませる素材としてゲル状の特性を持つエストラマー樹脂を使用している。

水圧は蓋の入水端子の内径の円面積に貯水槽の水位の高さまでの円柱の重量となる。これは間をチューブで結んで、どのようなルートを取っても変わらない。養液の比重は水とほぼ同じ1なのでフロートの体積は前述の水の円柱の重さにフロートや接着パッドの重量、そして接着力を加えた値を上回れば良いのである。

下図でチューブの内径は4ミリだが、入水端子の内径が3ミリと最も狭いので直径3ミリ高さh1の水柱の重量が入水端子部に加わることになる。その重量をフロートの浮力で押さえることになる。くりかえすが貯水槽の容量やチューブのルートは関係ない。

さて、ここで水位調整器に入る養液の速度v1はトリチェリの定理により貯水槽の水位のルートに比例する。すなわち水位が高ければ高いほど速くなる。この時の流量は入水端子の内径にv1をかけた値になる。一方水位調整器から出る養液の速度v2は水位調整器内の水位と栽培槽側の水位の差h2によって決まる。すなわち栽培槽の水位が上がり水位調整器の水位に近づけばv2はかなり遅くなる。従って2〜3センチ程度の水位では流れが遅くなるので水位調整器の設置台は最低でも3センチ以上にする必要がある。

トリチェリの式からわかるように養液の速度や流量は水位の差によってのみ決まる。水位調整器を使っているとなかなか養液がたまらないなと感じることがあるがその時は水位差に注意が必要である。

以上、理系でわかる人はそんなにくどくど言わなくてもと思うかもしれないが、文系の人には難しいかもしれない。
しかし原理は理解できなくても簡単に使えるのでぜひ使ってみてほしい。

このページは20016年4月~5月にかけてブログに書いたものをまとめたものです。

なお、この自動給水器以外にも通常のプランターへ埋め込み式の自動給水器も現在開発が終わり実証試験中です。